この記事は、持ち家派の方々を否定するのが目的ではありません。私自身が、持ち家vs賃貸問題を真剣に考えた調べる過程で書いたメモを、同じ悩みを持つ人への参考としてシェアするものです。
持ち家派シミュレーション
持ち家派の支払総額を次の前提でシミュレーションしました。
・物件4000万円
・頭金1000万円
・3000万円をローン金利2%で支払う。
・35歳で25年ローン。60歳で完済。
・90歳で死亡するまで同じ物件に居住
このケースの支払総額は次のようになります。
・頭金 1000万円
・マンション購入時手数料(物件の10%) 400万円
・ローン支払総額 3840万円程度(利息840万円)
・固定資産税 年10万とする。10万×56年=560万円
・管理費、修繕費積立 月5万 5万×12ヶ月×56年=3360万円
・リフォーム総額500万とする
合計9660万
固定資産税、管理費・修繕費積立、リフォームは低めに見積もりましたが、それでも思った以上にかかる印象です。
賃貸派シミュレーション
次に、賃貸派が35歳から90歳までに9660万円支払ったとすると月々の家賃はいくらになるか、を計算します。
前提:
・現在35歳、90歳で死亡
・家賃はずっと変わらない
・1年毎に家賃2ヶ月分の契約更新料を支払う
計算の結果、賃貸派の月々の家賃は133,000円となりました。
以上のシミュレーションが意味するのは
「4000万円の分譲マンションと家賃133,000円の賃貸マンションは、生涯支払総額が同じ9660万円でバランスする」ということです。
一般的に4000万円のマイホームの方が13万の賃貸より部屋のグレードが高いので、持ち家のほうが得といえそうですが、差は微妙です。遠い将来の地価や賃料相場や税制の変更次第で、持ち家と賃貸どっちに転んでもおかしくありません。
持ち家と賃貸。お得度合いトントンだったとしても、私は賃貸を選びます。長期ローンのリスクが一般庶民には大きすぎるのが決定的な理由です。
長期ローンによる持ち家購入(特にマンション)には次のようなリスク・問題点があります。
1.予想以上にコストがかかるリスク
固定資産税の増税、管理費・修繕費積立の値上げ、故障によるリフォームの発生がありえます。特に築年数がたつほど修繕・リフォームが頻繁に必要になります。
定年退職し収入が減った後に建物も高齢化し、加速度的に修繕コストがかかります。修繕積立金でまかなえないと追加徴収がありえます。あなたが払えても、同じマンションの住民が払えず、修繕されない可能性もあります。そうなると新しい家に引っ越すだけの余資を持つ人は出て行き、のこされた人は欠陥のある老朽建築物で余生を暮らすことになります。
「家を買っておくと安心」と言われますが、逆です。形あるものは全ていつか壊れます。壊れるものを長期ローンで買うのは安心どころか心配の元なのです。
2.住宅ローンが払えなくなるリスク
事故、病気、会社のリストラ等で収入が減り、住宅ローンを払えなくなるかもしれません。マイホームを売却しても売却価格とローン残高の差額が負債として残ります。日本にノンリコースローンはないので、家を返せば借金がチャラというわけにはいかないのです。住宅ローンを返せず自己破産する人が後を立ちません。一方、賃貸の場合は安い物件に引っ越せばよいだけです。
3.環境が変化するリスク
欠陥住宅、欠陥マンションだったり、土壌汚染、治安の悪化で住めなくなるリスクがあります。引っ越すには物件の売却、住宅ローンの生産、残余債務の支払いが必要です。
4.家族構成の変化
子供がいて家族の人数が最も多い時に家を買うことが多いです。子供部屋のある広い新築物件を買うと高くつきます。子供が独立した後も広い家に住み続けるのは非効率的です。
賃貸では家族構成の変化に合わせて小さな安い部屋に引っ越すことが簡単です。すると上のシミュレーション結果は賃貸有利に変わるでしょう。
5.建築物の寿命
上のシミュレーションは同じ家に55年住み続ける前提ですが、本当はこれは非現実的です。私は築30年の社宅に住んでいたことがありますが、ボロボロでした。しょっちゅうメンテナンスが入ります。配管の老朽化は立て替えないと修復不可能なケースもあります。老朽化による立替費用は火災・地震保険ではおりません。
6.頭金・マンション購入時手数料による機会損失
若い頃に頭金・マンション購入時手数料を支払ってしまうと、資産運用でお金を殖やす機会を失います。上のシミュレーションでは、合計1400万円をマイホーム購入時に支払いました。もし1400万円を60歳まで25年間年率3%で運用すると2913万円に増えます。
持ち家派が35歳の頃4000万円に買ったマイホームの価値は、買った瞬間から下落します。60歳時点築25年では価値は十分の一程度に落ちているでしょう。
60歳時点で築25年400万円の家か、3000万円の金融資産、どちらが良いかは自明です。頭金のために貯蓄したお金はそのまま長期運用するのが経済的観点からは合理的です。
7.マイホームが行動を制約する
一旦マイホームを買ってしまうと引っ越すことは簡単ではありません。マイホームを基準に家族構成や職場や学校を決めるという本末転倒なことになりかねません。
このように、長期ローンを組んで家を買うリスクは、一般庶民の許容度を遥かに超えています。
次に持ち家派の立場にたって反論し、それに答えます。
反論1.賃貸では死亡時に残された家族が困る
住宅ローンを組むと保険に入ります。もし途中で死んだら保険金で住宅ローンが完済され、残された家族はただで家に住めます。これが持ち家派のメリットと考えられています。
これは違います。賃貸派でも十分な額の生命保険に加入しておけば家族は困りません。家族は現金一括払で新居を買うか、家賃にあてれば良いだけです。
反論2.賃貸は何も残らない
「住宅ローンを払った後は不動産が残る。賃貸は払い続けても何も残らない」という主張は誤りです。建築物の価値は30年もすればただ同然になります。土地の価値は残りますが人口が減少する日本では土地の価値は今後下落します。更地にしないと売り手がつかない場合もありえます。マンションを更地にするのはほぼ不可能です。更地にできず売れない場合、固定資産税と管理費の支払義務だけが残ります。
賃貸には残るものがあります。お金です。頭金として払わず資産運用に回したお金が成長することが期待できるからです。
反論3.地価は上がるかもしれない
「日本の地価下落」がメインシナリオですが、地域によっては上昇するかもしれません。人が都心へ流入し人気地域の需要がピンポイントで高まることもありえます。しかし、そもそも、このような「上がるかもしれないし下がるかもしれない」というのがリスクなのです。
そのリスクに長期ローンで調達した資金を賭けるのは、一般庶民には無謀な行為です。
反論4.賃料相場が上がるかもしれない
今住んでいる部屋の家賃が上がることはありえます。その場合は安いところに引っ越すだけです。賃料相場全体が上昇した場合は逃げ場がありませんが、そのような事態は日本経済全体が好景気に沸いた時に限られます。自分の給料も上がっているでしょうから問題はありません。
反論5.年を取ったら借りれない
年寄りは部屋を借りにくいのは今のところ事実のようです。だからといって若い頃に家を買っておくのは不合理です。高齢者になった頃には家が老朽化しているからです。
家を買わずにお金を貯めておけば、高齢者でも資産証明で部屋を借りられます。現金を見せても部屋を借りられない場合は現金一括で家を買えば良いだけです。
老後のために用意すべきなのは家でなく金融資産です。家は年を取りますが、金融資産は年を取りません。
反論6.賃貸にろくな物件がない
「賃貸は安普請で危ない」といわれます。そういう物件もあるかしれません。この問題に対しては、分譲と賃貸が混在するマンションを探したり、URなど信頼性の高い業者の物件を選んだりすることで対応できます。
「賃貸は設備が貧弱」といわれます。豪華なエントランス、システムキッチン、ミストサウナ、24時間常駐するセキュリティは持ち家ならではです。
しかし、いくら頑丈で豪華で綺麗であってもウン十年もたてば強度は落ち、美しさは衰え、故障が増えていきます。豪華な建物に何十年も住むよりも、簡素な新しい部屋を移り住むことを私は選びます。
反論7.家を持つことは喜びである
「家を持つことは喜びだ」「家を買って自分に自信がついた」など精神的なメリットを感じる人もいると思います。ただ、一般庶民の許容度を遥かに超えたリスクを抱えてまで得たい喜びなのか、考えたほうが良いでしょう。
私の場合:メインシナリオ
私は、仕事をやめるまでは賃貸に住みます。家族構成やライフスタイルの変化にあわせて適切な家に引っ越します。常に築30年未満の快適な物件に住みます。
貯蓄し金融資産へ投資し、資産を殖やします。何が起きても対応できる体制を整えます。
私が高齢者になるころには、医療・介護などの設備・サービスの整った住居が開発されるでしょうから、その中から物件を選びます。それまでに大規模地震が起きた場合は、地震後に立てられた物件を選びます。できれば賃貸、だめなら現金一括払で購入します。
私の場合:持ち家シナリオ
以下の条件が揃ったら、高齢者となる前であっても家を買います。
1.ライフスタイルが完全に固定された
2.現金一括払で家を買い、建替え資金を確保してもまだ一生困らないだけのお金が貯まった
持ち家シナリオの可能性は高くありません。若くして大金持ちになる可能性が高くないし、ライフスタイルを固定したいと思わないからです。
おわりに
私は不動産の専門家ではないので、間違っている部分もあるかと思います。だた一つだけいえるのは、住宅ローンで家やマンションを買うときは、リスクをきちんと理解したうえで決断するということです。深く考えずに買うと想定外の悲劇に見舞われることもありえます。
お読みいただきありがとうございました。
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