久しぶりに、木下是雄「理科系の作文技術」を読み返してみました。
本書は中公新書のロングセラー本の1つとして有名なので、今さら私が紹介する必要もないかもしれません。でも、やはり良著でしたので紹介したいと思います。
本書は、論文やリサーチペーパーを書く人に強くお勧めします。それ以外にも、ビジネスやアカデミックの世界で、企画書や報告書などを書く人全てにお勧めです。
本書の通り実践すれば、文章の主題や論理の明確さ、文章の分かりやすさが格段に向上します。
「理科系の」と銘打ってはいますが、理系・文系を問わず使えます。私も文系です。著者の専門の物理学の文章が事例として使われているだけで、本書の作文技術は広く応用可能です。
文章を書く前段階での、主題の選び方、材料の集め方。
そして文章を書く際の、文章の構成の決め方、パラグラフの立て方といった文章の構造の決め方。
一つ一つの文章を正しく、短く、理解しやすく書く方法。
このような、明快な文章を書く方法が丁寧に解説されています。
事実と意見を明確に書き分ける
私にとって、最も有益だったのは、「7.事実と意見」です。事実と意見を明確に区別して書き分けることを、いかにおろそかにしているかを思い知らされます。
本書には、アメリカの小学校の教科書の問題例が紹介されています。
1.ジョージ・ワシントンは米国の最も偉大な大統領であった。
2.ジョージ・ワシントンは米国の初代の大統領であった。
どちらの文が事実の記述か?もう一つの文に述べてあるのはどんな意見か?意見と事実はどうちがうか?
このレベルなら事実と意見の区別はつきます。1が意見で、2が事実です。1は意見であることを明確にするために、
ジョージ・ワシントンは米国の最も偉大な大統領であったと私は考える
と書くべきです。
では、次のような文章はどうでしょうか。
近頃の学生は整った文章を書く能力がないという声をよく聞くが、私はこれは主に理科系の学生に関していわれていることだと思う。理科系の学生がきちんとした文章を書けないことにふしぎはない。彼らの本領は文学ではないからである。
第1文では、「学生が文章を書けない」というのは、不特定多数や私の意見だったのに、第2文では、事実になってしまっています。
こんな文章はつい、書いてしまいがちです。本書を読んで以来気をつけています。
読み返さずに読める文章を書く
もう1つ有益だったのが、「5.文の構造と文章の流れ」です。「読者がそこまで読んだことだけによって理解できるように書く」ことは非常に重要です。
私達は、一度読んでも理解できない文章をかいてしまいがちです。これは、主語と述語が遠く離れ、間に修飾語が複雑に入り込んでしまうため、何が主語で何が述語か分からなくなるためです。
本書の例です。
・・・直流電気抵抗の消失をはじめとする特異な性質を示す超伝導状態は、いろいろな運動量をもって勝手な運動をしている伝導電子が、ある臨海温度Tcで、そのほとんどがある特定の運動量pをもった1つの量子状態におちこむことによって実現する。電子自身は、1つの量子状態を1個以上占有できないというパウリの禁制原理にしたがうので、このような状態をとることができない。
もう訳が分かりません。理解できないのは、私達の理系の知識不足が原因ではありません。主語っぽいものが次々出てきたり、修飾語が次々出てくるので訳が分からなくなるのです。
この文書を見事に校正した例は本書でご確認ください。
この例は極端ですが、日本語は、何も考えずに書かれると、このように読み手に分かりにくい文章になってしまう性質を持っているのです。
明確で分かりやすい文章を書きたい人におすすめできる一冊です。
お読みいただきありがとうございました。
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