今回は「予備知識無しでもよく分かる経済解説」シリーズをお送りします。
【予備知識無しでもよく分かる経済解説16】サブプライムローン・バブルの発生と崩壊5の続きです。
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【予備知識無しでもよく分かる経済解説16】サブプライムローン・バブルの発生と崩壊5の続きです。
リーマンショック
住宅ローン返済の延滞や貸し倒れが続出すると、サブプライムローンをはじめとする住宅ローン証券化商品の価値が暴落しました。
住宅ローン証券化商品は、たくさんの住宅ローンに分散投資しているからリスクは少ないはずでした。しかし、アメリカ中で同時に住宅価格の下落と住宅ローンが不良債権化したため、証券化商品の中に入っているサブプライムローンの価値が同時に無価値になったり、大きく減少したりしたのです。
サブプライムローン証券化商品に投資していた世界中の投資家が損失を被りました。
ベアスターンズやリーマン・ブラザーズという投資銀行は、サブプライムローン証券化商品を積極的に作って販売し、自らも積極的にサブプライムローンに投資していました。。大手投資銀行のゴールドマン・サックスに規模や収益で追いつくために、無理な取引をしていたのです。
2008年3月、倒産寸前の危機に陥いったベアスターンズは、JPモルガンチェースに救済されました。その背景にはアメリカ政府やFRBからJPモルガンチェースへの働きかけがあったといわれています。
2008年9月には、リーマン・ブラザーズが破綻してしまいました。政府やFRBはリーマン・ブラザーズを助けませんでした。この判断は失敗であったともいわれています。
投資家は、保有しているサブプライムローン証券化商品を売ろうとしました。一方で、サブプライムローン証券化商品を買おうとする人はほとんどいませんでした。買い手が現れないため、値段がつかないサブプライムローン証券化商品もありました。
リーマン・ブラザーズの破綻は世界中に衝撃を与えました。「リーマン・ショック」をきっかけに世界中の株式市場でまずはじめに金融機関株が大きく暴落し、その後金融関連株以外も暴落しました。
この世界同時株安は、サブプライムローン証券化商品に投資していない投資家や企業にも損失を与えました。
サブプライムローンや株の暴落で損失を被った金融機関は、「貸し渋り・貸し剥がし」を始めました。
ここで、「なぜ、損失を被った金融機関が貸し渋り・貸し剥がしをするのか?」を説明します。
貸し渋り・貸し剥がし
ここから先はプラザ合意によるバブル発生と崩壊3での解説と同じ内容です。
なぜ、銀行は貸し渋りや貸し剥がしをするのでしょうか。
それは世界中の銀行に課せられている規制が原因なのです。その規制は「BIS規制」といいます。BISとは、"Bank of International Settlement"の略で、日本語で「国債決済銀行」といいます。
BIS規制とは何かを説明します。
BIS規制とは、「自分の国だけで商売するのではなく、国際的に商売をしている銀行は、自己資本比率を8%以上に保たなければならない」という規制です。
ここで「自己資本比率」とはなにかを説明します。
まず、「自己資本」とは、文字通り「自分自身のお金」という意味です。
例えば、8億円を持っている人が、ゼロから銀行を設立したとします。
すると、銀行の経営状態は次のようになります。
借方 貸方
現金 8億円 自己資本 8億円
合計 8億円 合計 8億円
この表の事を「貸借対照表(バランスシート)」とよびます。
「貸借対照表(バランスシート)」では、左側(会計用語で「借方」とよびます)に銀行が持っている資産が表示され、右側(会計用語で「貸方」とよびます)に銀行が調達したお金の出所が表示されます。
銀行だけでなく企業は全てこの「貸借対照表(バランスシート)」を決算のたびに作成することが義務付けられています。
さて、この銀行の貸借対照表(バランスシート)から何が分かるかというと、
「銀行は8億円の現金持っている」
「銀行は8億円を自己資本から調達してきた。つまり銀行自身のお金。」
ということが分かります。
ではここで、この銀行の「自己資本比率」を計算してみます。
「自己資本比率」とは、「総資産に占める自己資本の割合」を指します。
数式では、
自己資本比率 = 自己資本 ÷ 総資産
と表されます。
上の銀行の例では、自己資本は8億円です。そして総資産も8億円です。
よって自己資本比率は、
8億円 ÷ 8億円 = 100%
となります。
BIS規制の定める「自己資本比率8%以上」という基準は余裕で守られています。
【解説】
自己資本比率について
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「自己資本比率」とは、「総資産に占める自己資本の割合」をいう。
「自己資本」とは、銀行自身のお金のことをいう。
「総資産」とは、銀行が持つ資産全体のことをいう。
----------------------------------------------------------------
ここで、銀行がお客さんから92億円の預金を預かったとします。
すると、銀行の経営状態は次のようになります。
借方 貸方
現金 100億円 預金 92億円
自己資本 8億円
合計 100億円 合計 100億円
この場合では、銀行の自己資本は8億円のままです。お客さんが預金として銀行に預けたお金は、銀行のお金ではなく、お客さんから預かっているお金です。そのため、預金は銀行の自己資金ではありません。
そして、総資産は100億円になりました。
自己資本利率を計算すると、
8億円 ÷ 100億円 = 8%
となります。
BIS規制の定める「自己資本比率8%以上」という基準はぎりぎりで守られています。
このように自己資本比率とは、銀行が総資産のうち自分自身のお金をどれだけ持っているかを示しているのです。
自分自身のお金が多いほど、その銀行は経営に余裕がある、ということになります。
そして、BIS規制とは、「国際的な仕事をする銀行は、十分なだけ自分自身のお金を持って経営しなさい。具体的には、自己資本比率を8%以上に保ちなさい。」という規制なのです。
では次に、この銀行が100億円の現金のうち、50億円を企業に貸して、50億円で土地を購入したとします。
すると、貸借対照表(バランスシート)は次のようになります。
借方 貸方
貸付金 50億円
土地 50億円 預金 92億円
自己資本 8億円
合計 100億円 合計 100億円
今この銀行の「貸借対照表(バランスシート)」からは、「自分のお金8億円と、顧客の預金92億円を元手に、企業に50億円貸して50億円の土地を買った」ということが分かります。
ここで、買った土地の値段が下がってしまい、49億円になってしまったとします。
すると、「貸借対照表(バランスシート)」は次のようになります。
借方 貸方
貸付金 50億円
土地 49億円 預金 92億円
自己資本 7億円
合計 99億円 合計 99億円
左側の土地の値段が1億円減ってしまった分、右側の「自己資本」も1億円減ってしまったことに注目してください。
「貸借対照表(バランスシート)」では、右側と左側の金額は必ず同じ金額にします。
土地の値段が下がって左側の金額が減ってしまったら、右側の「自己資本」を同じ額だけ減らして、左側と右側の金額を等しくします。
なぜ、「自己資本」を減らすのでしょうか。
それは、銀行経営で損を出してしまった分は、自分のお金(自己資本)で責任を取らないといけないからです。
土地の値段が下がって損したからといって、お客さんから預かった預金を減らすわけにはいきません。
では今の自己資本比率を計算してみましょう。
7億円 ÷ 99億円 = 7.1%
BIS規制で要求されている8%を下回ってしまいました。
このままでは、この銀行は国際的なビジネスを続けることができなくなります。
何とか自己資本比率を8%に戻す必要があります。それには二つの方法があります。
一つは、損した1億円分自己資本を増やす、という方法です。ポケットマネーから1億円だすか、誰かに1億円出資してもらうのです。
つまり、自己資本比率の計算式である、「自己資本 ÷ 総資産」の、分子を増やすという方法です。
もう一つの方法は、自己資本比率の計算式である、「自己資本 ÷ 総資産」の、分母を減らすという方法です。
分母の総資産を87億円まで減らせば自己資本比率は、
7億円 ÷ 87億円 = 8%
とすることができます。
総資産を99億円から12億円減らし、87億円にするには、土地を12億円売るか、企業に貸しているお金のうち12億円を返してもらい、手に入れた現金を預金してくれている顧客に返す、という方法があります。
ここでは、貸付金を12億円減らした場合を見てみましょう。
借方 貸方
貸付金 38億円
土地 49億円 預金 80億円
自己資本 7億円
合計 87億円 合計 87億円
これで、銀行の自己資本比率は「7億円 ÷ 87億円 = 8%」に戻すことができました。
このようにして、損をしてしまった銀行が、自己資本比率を維持するために、総資産を減らそうとして、企業に貸しているお金を取り戻してしまう、ということが起きるのです。
これが、「貸し剥がし」です。
「貸し剥がし」をしてようやく自己資本比率を戻した銀行は、新規の融資もしようとはしません。そして「貸し渋り」をしてしまうのです。
【解説】
銀行の「貸し渋り」「貸し剥がし」について
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企業に貸したお金が貸し倒れになったり、保有する土地が値下がりしたりして損失を抱えた銀行は、BIS規制で要求される「自己資本比率8%以上」という基準を守るために、「貸し渋り」や「貸し剥がし」を行って総資産を小さくすることがある。
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