村上春樹「走ることについて語るときに僕の語ること」を読みました

「走ることについて語るときに僕の語ること」は、作家の村上春樹氏が走ることについて書いた本である。

村上春樹氏がフルマラソン完走(なんとギリシャのマラソン発祥コース)を皮切りに、100kmマラソン、トライアスロンを走る。この過程で考えたことが書かれている。

村上春樹氏のデビュー当時、同時代の作家はたくさんいたが、今では他の作家とはすっかり大きな差がついた。「この差を決定付けた要因って何なんだろう」という疑問が、本書を読んで少し解けた気がした。
 

本書では村上春樹氏にしては珍しく、小説を書くことについてストレートに語る。同氏の小説に対する姿勢は真摯そのものである。売れ行きや文学賞などの外的要因にこだわらず、自分の基準に到達したものを書けたかどうかだけを大事にする。

「小説家という職業に――少なくとも僕にとってはということだけれど――勝ち負けはない。発売部数や、文学賞や、批評の良し悪しは達成のひとつの目安になるかもしれないが、本質的な問題とは言えない。書いたものが自分の設定した基準に到達できているかいないかというのが何よりも大事になってくるし、それは簡単には言い訳のきかないことだ。他人に対しては何とでも適当に説明できるだろう。しかし自分自身の心をごまかすことはできない。」

村上春樹氏の走ることに対する姿勢は、書くこととほとんど一致している。

「タイムも順位も、見かけも、人がどのように評価するかも、すべてあくまで副次的なことでしかない。僕のようなランナーにとってまず重要なことは、ひとつひとつのゴールを自分の脚で確実に走り抜けていくことだ。尽くすべきは尽くした、耐えるべきは耐えたと、自分なりに納得することである。そこにある失敗や喜びから、具体的な――どんなに些細なことでもいいから、なるたけ具体的な――教訓を学び取っていくことである。そして時間をかけ歳月をかけ、そのようなレースをひとつずつ積み上げていって、最終的にどこか得心のいく場所に到達することである。あるいは、たとえわずかでもそれらしき場所に近接することだ」

毎日書くこと、毎日走ることが基本的ルールだと説く。毎日書く、走ることで「自分は毎日書き、毎日走るのだ」と自分の体に覚え込ませる。

「毎日机の前に座り、意識を一点に注ぎ込む訓練を続けていれば、集中力と持続力は自然に身についてくる。これは前に書いた筋肉の調教作業に似ている。日々休まず書き続け、意識を集中して仕事をすることが、自分という人間にとって必要なことなのだという情報を身体システムに継続して送り込み、しっかりと覚え込ませるわけだ。そして少しずつその限界値を押し上げていく。気付かれない程度にわずかずつ、その目盛をこっそりと移動させていく。」

「たとえ絶対的な練習量は落としても、休みは二日続けないというのが、走り込み期間における基本的ルールだ。筋肉は覚えの良い使役動物に似ている。注意深く段階的に負荷をかけていけば、筋肉はそれに耐えられるように自然に適応していく。「これだけの仕事をやってもらわなくては困るんだよ」と実例を示しながら繰り返して説得すれば、相手も「ようがす」とその要求に合わせて徐々に力をつけていく。」

これは私たちにも適用できるルールだと思う。何かを成し遂げたいなら、毎日取り組むことだ。毎日取り組む習慣は、毎日取り組むことでしか身につかない。

習慣を身に付けるためのライフハックは手帳術、ノート術、スマートフォン術など数多いが、これらはサポートツールに過ぎない。これらのツールが不要になるくらい身体にしみこませるしか習慣化する方法はない。

それにしても、どうして村上春樹氏の文章はこんなに美しいのだろう。自分の文章と交互に並べてみて恥ずかしくなる。同氏の文章力の秘密は次の通り簡単なものである。

「スコット・フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』の翻訳も順調に進んでいる。第一稿は既に仕上がり、それに細かく手を加えて第二稿を作っているところだ。一行一行を丁寧に見直して、手を加えていくと、訳文がだんだん滑らかになり、フィッツジェラルドの文章の本来の持ち味が、より自然に日本語に置き換えられていくのがわかる。今更あらためて僕がこんなことを言うのも気が引けるのだが、これは本当に見事な小説だ。何度読み直しても、読み飽きることがない。文学としての深い滋養にあふれている。読むたびに何かしらの新しい発見があり、新たに強く感じ入るところがある。若干二十九歳の作家に、どうしてここまで鋭く、公正に、そして心温かく世界の実相を読み取ることができたのだろう?どうしてこんなことが可能だったのだろう。考えれば考えるほど、読み込めば読み込むほど、それが不思議でならない。」

要するに、「何度も何度もする推敲する」の一言に尽きる。愚直に何度も手を加え、芸術的な文章の物語を完成させる。

私自身はこんな真摯さで仕事に取り組んでいるだろうか?

自問自答せずにはいられない。


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